1990年代、マス・メディアのもたらす情報に少しでも接しているアメリカ人であれば、「情報スーパー・ハイウェイ」(9)構想について知らない人はいないはずである。映像、音声、文字、数字などはすべてデジタル情報として記憶装置に記憶され、伝送され、各家庭や企業がそれぞれ互いに接続され情報を交換することを可能にし、そして、かつては想像だにしなかったほど容易に巨大な情報の宝庫への接続を可能としているのである。小切手を精算したり、手紙を書くために文字を打つために用いられるコンピュータは、新世界への入り口の役割も果たすようになるのである。例えば、スター・トレック〔テレビの番組名〕の今週の番組内容を呼び出したり、シェイクスピア風のソネットや、ヘーゲル派哲学の哲学書を読んだり、ハワイにいる姉妹と映像を通して話をしたり、L.L.ビーン〔アウトドアライフ用品の商標名〕のコンピュータ画面上の商品倉庫をあちこち見て回るなど、コンピュータを使って様々なことをすることが可能になるのである。事務所から、空港から、自宅にコンピュータをつないでビデオ・メッセージを受け取ったり、スケジュール表に新しい予定を書き込んだり、同僚に自分の犬を見せるためにビデオ映像を取り出したり、台湾にいる友人の住所をもう一度確認したりすることができるのである。
サイバースペースは、電子通信が行なわれ、デジタル情報が存在する無機的な「空間」として描写されていると思われる。より狭く定義すると、「サイバースペース」はインターネットの類義語であり、そのインターネットは、「推定2千万ものコンピュータ・ユーザーが電話線によって接続され、何千にものぼる世界中の電子情報の倉庫へとつながっている、巨大なネットワークのネットワーク」(10)である。前節で述べた「未来的な」可能性はすべて、すでにインターネット上では現実のものとなっている。誰しもが自宅や事務所にあるコンピュータから、膨大な量の情報にアクセスできるだけでなく、はるか離れた所にあるコンピュータへもアクセスすることが可能なのである。(11)
公のネットワークを通して、誰かが自分のコンピュータにアクセスすることができるということは、それはまた、他の人が、同じことをすることも可能であることを意味する。ここでいう他の人とは、情報を共有するためコンピュータの所有者のシステムの限定された部分に、所有者の許可を得てアクセスしてきた、いわば招かれた客かもしれないし、または、そのコンピュータの所有者の仕事、システム、生活について、詮索する目的でアクセスしてきた、招かれざる侵入者かもしれないのである。(12)詮索好きな人にとってハードディスク装置〔コンピュータの内部又は外部にある、情報を記憶させておく駆動装置。以下、ハードディスクとする。〕は、貴重な情報の宝庫であり
、(13)もし侵入者が優れた技術を有する者であれば、侵入を受けたコンピュータの所有者が、自分のシステムに誰かが無断でアクセスしたことにまったく気づくことはないであろう。(14)
人々が、ますますコンピュータ上で日常生活における様々な処理を行い、記録をし、コンピュータもますます公のネットワークへと接続されるという時代が到来したことにより、今後予想されるハードディスクへの捜索が脅威となりつつあるように思われる。クリストファー・スロボジン(Christopher
Slobogin)とヨーゼフ・シューマッハ(Joseph Schumacher)は、様々な政府活動に伴う侵入行為に対する人々の問題意識に関する調査を行ない、次のような結果を得た。「企業のハードディスクに記録されている情報を探るということ」は、「大学の寄宿舎の捜索」を行なうことと同じほど侵入的な行為である。(15)1996年の今日においても、インターネットを利用する人は誰でも、自分のコンピュータをインターネットへと接続することによりプライバシーに対する期待が減少すると考えていると、当然のように言われているが、コンピュータへ接続することが生活の中心ともなりつつある現在においては、そのような議論は次第に不合理なものとなりつつある(16)。人々の私生活は、まったく信じられない割合でサイバースペースの中へと移行しつつある。インターネットは、一カ月にほぼ一割の割合で成長を続けており(17)、アイディアやデータを交換するだけでなく、結婚の申し込み、金融取引、その他にも様々な用途でインターネットは利用されている。企業の事務所も同じ割合でオンライン化が進んでおり、事務所にある各個人のコンピュータは、大きな潜在的可能性を秘めたインターネットへと、次第に接続されつつある。テレビ、電話そしてラジオのように至る所に存在するものと同じように、サイバースペースが日常生活において欠くことのできないものになると、どれほど多くの人が信じているか、その真価を確かめるために、ケーブル、電話、娯楽、銀行などの諸産業における10億ドル規模の合併や取引の波を、我々は見守っていくしかないのである。(18)
同一デジタル回線上で、互いに自分の子供達の映像を送ることが可能であるということは、同様に、児童ポルノの映像を互いに送ることも可能である。ソフトウェアの製作者から即座にそのソフトを転送することが可能な同一の回線上では、事実上まったくコストをかけることなく、海賊版の音楽ソフト(pirated
music)や著作権で保護された写真、そして、無断で複製された商業ソフトなどの交換が可能となるのである。盗まれたクレジットカードの番号、電話のアクセス・コード、そして、他人のコンピュータへ侵入するために特別にプログラムされたソフト(19)などは、必然的にネットワークを通して入手されることとなる。以上が、デジタル禁制品の世界である。
より正確にいえば、デジタル禁制品はコンピュータ・ファイルであり、特別に許可された場合を除き、合法的に所有することはできないものである。例えば、児童ポルノのデジタル映像を単に所有しているというだけでも、連邦犯罪(20)の構成要件となる。同じく、商業プログラムを無断で変更した(cracked)コピーを所有すること - ライセンス保護のための暗号プログラムを取り外すために違法に改造したもの - は、著作権法又は契約法違反である。(21)当然、デジタル禁制品の合法的使用も中には存在する。(22)しかし、従来の禁制品の所有者について考えてみると、単にそのようなデジタル・ファイルを所有しているだけでも、その所有者が違法な活動を行なうという強い疑念を抱かざるを得なくなるであろう。
デジタル禁制品の所有者が、それらのファイルを自分のハードディスクに転送するために、インターネットを利用する可能性があるという理由だけで、当局は、違法行為の証拠を探しだすために、そのようなハードディスクがインターネットに接続されているという事実を利用すると考えられる。法執行官が、ハードディスクの内容を調査することによって得られる利益は明白である。それは、ハードディスク内にある様々な情報が、所有者が関与していると考えられる犯罪を見つけだす重要な鍵をもたらすという利益である。(23)同時に、個人がハードディスク内に有していると考えられるプライバシーの利益もまた明白なものである。法執行官が犯罪の証拠を見つけようと見つけまいと、ハードディスク内を調べる過程で、所有者の私生活について微に入り細にわたり知ることになる。(24)ハードディスクの捜索において行なわれる調査の範囲 - そして、それに伴って生じるプライバシー侵害の可能性 - に対する制約を確実なものとするために、令状が必要であるとする論者は多い。(25)
そのような論者は皆、人的捜査が、ハードディスク内の内容を評価するためにそれらを調査するのだと考えてきた。しかし、ある種の捜査において
- 特に、デジタル禁制品に焦点をあてた捜査においては - 禁制品に関連のある証拠が存在するか、それとも存在しないのかを決定するのに、人間が必要ではない捜査が存在するのである。例えば、次のようなコンピュータ・プログラムを組むことが可能である。ハードディスク内部を捜索し、違法改造ソフトの一部の断片の「確かな」コピーが存在するかしないかを報告するプログラムである。(26)そのような捜索対象物を特定した(object-targeted)捜索プログラムは、合法的なものであればどのような商業ソフトのコピーも捜索の対象とはせず、また同様に、変更の度合いが軽微なコピーも対象にはしないのである。(27)人的捜査によって見つけだすことができた情報が、たとえどれほど明らかに違法なものであっても - または世間の興味をそそるものであっても - そのプログラムは、当然ハードディスク上のその他の関係のない情報を、当然のことながら、捜索の対象とはしないのである。
そのような捜索プログラムは、ファイルを捜索する際に目標とするデジタル禁制品の正確なコピーを必要とするので、捜索は、嫌疑のある特定の個人に絞って限定的な使用にとどまると考えられる。捜査官が、ある人物が児童ポルノを取り扱っていると疑っている場合について考えてみると、未成年者が出ていて明らかに性的な物は、どのようなものであっても見つけるように捜索プログラムを変更することはできない。(28)そのかわりに、捜査官には被疑者が所有していると考えられる特定のデジタルビデオ映像のコピーが必要となり、そして、捜索プログラムは特定の映像がコンピュータのシステム上に存在するかどうかということ以外、捜査官には何の情報ももたらさないのである。もし、被疑者が所有しているビデオ映像が、捜索するように指定されたビデオ映像とほんの僅かに違っていても、または、ビデオ映像を暗号化して保管しておいたり、インターネットからはアクセスできない着脱式カートリッジ〔ハードディスクのディスク部分を取りはずしができるようにカートリッジに収めたもの〕にビデオ映像を保管することができる能力が被疑者にある場合には、その捜索は失敗に終わることとなる。
しかし、少し考えてみると、政府はネットワーク上にある多くのハードディスクを、同時に捜索するそのようなプログラムを使用するのに十分な技術手段を獲得したのである。(29)さらに肯定的に仮定してみると、捜索プログラムを使用すること自体は、各個人のシステムそれぞれに与える影響はごく僅かであり、(30)捜索プログラムはデジタル禁制品の一部が存在するか否かを報告するにすぎないのである。このような考えのもと、通常の方法でデジタル禁制品 - 児童ポルノビデオや、「キャプテン・ブラッド(Captain
Blood)」(31)によって改造されたワード・パーフェクト(WordPerfect ワープロ・ソフト〕の一部のコピー - の一つを発見した法執行官は、そのような禁制品を所有しているコンピュータ所有者がいるということは、そのようなファイルを所有している人が他にもいると考えるであろう。そして、捜査官は、インターネット上の捜索に取り掛かるのである。捜査官が、そのようなファイルを所有するすべての個人を逮捕することは不可能ではある。しかし、コンピュータ内にそれらのコピーを所有している個人を、若干名又は何百名若しくは何千人も特定することができ、よって相当な理由を得たことから捜索令状を請求することはできるのである。(32)
ここで述べた捜索は、新たな特徴を明らかにしている。(33)底引き網的な捜索の一部として、個人のハードディスクは、無断で、そして、犯罪を犯したと疑うに足る特定の理由もなしに捜索され、その捜索は、事務所や住居に存在する膨大な量の非常に私的な情報を走査(scan)することになるのである。しかし同時に、その捜索が財産権に対して与える影響は最小限であり、(34)誤った直接証拠を作り出すこともなく、特定のデジタル禁制品の一部を所有している個人の身元以上の事実を捜査官に明らかにするものでもないのである。(35)修正第4条は、そのような捜索をどのように扱うであろうか。(36)そして、そのような捜索は、修正第4条について何を我々に示すのであろうか。
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